春の戴冠
読了 静かな満みたりた気持ち。あれほど時間をかけて読んだのに、カタルシスもなければ、津波のような感激でもなく、ただ、深く、美しい時間を過ごせたことへの感謝。しかしまた、なんというすばらしい物語の終わり方だろう。ふっと、空気にとけてしまうよう。 藝術について、人生について、生と死について、回想するという行為について、神について・・・、考えつくし、語り尽くし、そしてそれが最後に付録される、主人公の修道院に入った次女から主人公へ宛てられる手紙のなかの一文に集約されていると思った。 私たちが〈地上にいる〉ということだけで、すでに一切が成就している この最後の一文がそのまま次の大作、「西行花伝」の世界へとつながっていくのだ。 歴史、という永遠の劇場。 不滅の魂は、他者への愛によってのみ生きる事ができる。 わたしの大好きな映画、《ベルリン〜天使の詩》で、主人公のサーカスの踊り子が茫然と鏡に向かって、心の中で、切実につぶやく「愛したい・・・」を思いだしました。 フィレンツェ、(いや、辻邦生と同じくフィオレンツァ「花の都」と呼ぼう)のまるで本当に花の香りのような柔らかな空気を思い出します。 夕暮れ、閉館間近のウフィッツィ美術館。誰もいない展示室で、「春」(まさに、春の戴冠)の前にひとり佇みつづけた時間を思い出します。絵と一体となり、絵に吸い込まれるようでした。 そして心の中でドビュッシーの若き日の交響組曲「春」が流れました。この曲はまさにこの絵のために書かれたのです。 ああ、また会いに行きたいです。 この本を読んで、まったくフィオレンツァにも、その藝術にも見方が変わりました。
by francesco-leica
| 2011-01-28 01:37
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