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ベートーヴェンの散歩道

2005/7/10(日) 午前 0:40
Yahooブログに投稿したものの再録
(Yahooブログの編集しにくさからこちらのブログへの統合を計画中)

ベートーヴェンの散歩道_b0107403_1363995.jpg


ウィーンのオペラ座の前から市電のDにのると、しばらくは同じ市電の1番と同じ路線を走るが、ショッテンリンクのあたりで枝分かれして北に進路を取る。
フランツヨーゼフ駅をすぎ、ハイリゲンシュタットをすぎて、電車は終点Nussdorf(くるみ村)につくが、実際には未だ先に停留所がある。
Beethovengang(ベートーヴェンの小道)だ。

ここは緑の多い静かな住宅地だが、その昔、ベートーヴェンが田園交響曲を作曲するにあたり、好んで散歩をした小道が、ほぼそのまま残されている。我々音楽家の聖地とも言うべき場所である。

この市電D最後の停留所では、お客を降ろしたあと、そのまま先の小さなループを使って逆戻りをする。まさに描いたような「終点」のおもむきをもっている。ここまで乗ってくる人はまばらで所謂観光客風の人を見る事はほとんどない。

私がここを訪れるのは必ず夕方、もう日がだいぶ傾いて暗くなりかけてからだ。市電を降りると、ベートーヴェンの散歩道が始まる森の入り口までゆっくり歩く。小さな小川が流れている。心の中で田園が流れ始めるのだ。1楽章の表題通り、まさに「田舎に着いたときの愉快な感情の目覚め」。

散歩道にたどりつく頃には小川沿いの電灯に明かりが灯り始める。昔のガス灯のような温かいオレンジ色だ。森の中をくねくね進む小川に沿って遊歩道が整備されており、心の中で田園をうたいながらゆっくりゆっくり歩く。大体2楽章を歌っているときが多い。あのチェロのテーマが、ゆっくりした足取りとマッチするのだ。かわいい鳥の声がよく聞こえて心が休まる。

うらやましいのはこの遊歩道に沿って素敵な邸宅がならんでいることだ。住所はまさに「Beethovengang」。音楽家なら夢の住処だろう。街の中心部からほんの数十分でこんな自然がのこっていて、そこに、もともとの美しさを損なわずに静かに住んでいる人達がいる。ウィーンのすごさ、ヨーロッパのすごさを痛感する。

しばらく散歩を続けると、ベートーヴェンの胸像がある小さな広場、Beethovenruheにでる。さらにいくと、右手一面に墓地がひろがる。ここまでくるとあう人もいない。家もなくなり、とにかく静かで「ウィーンの森」の様相となる。丘がゆったりと広がり、その斜面はおいしいワインを生み出すブドウ畑だ。

左にベートーヴェンの散歩道を離れ、小川を渡ると「Grinzingsteig」(グリンツィング坂)。一つ丘を越え、急坂をくだり、グリンツィングへと至る小道だ。

Grinzingsteigを汗をかきかき登り、途中、丘からの長めはまさに壮観。眼科に森、小川。向こうの丘の斜面にブドウ畑が広がり、田園交響楽は最終楽章を奏でる。夕日に照らされるその光景をじっと一人で見つめていて、美しさに涙がこぼれたこともあった。この光景が、今も変わらず残されていることへの感謝が、田園交響楽最終楽章のメロディーを重なる。

坂を降りると、グリンツィングのHimmelstrasseに着く。直訳「天国通り」、このホイリゲ酒場が続く通りに出来過ぎのネーミングだ。すでにあたりは夕闇が濃い。さて、今日はどこでホイリゲ(新酒の白ワイン)を飲むか。

ここグリンツィングはあまりにも観光地化されていて、残念ながらあまり魅力はない。私が最近、気に入って割とよく行くのがグリンツィングからも遠くない、Neustift am Wald(ノイシュティフトアムウ゛ァルト)。グリンツィングから市電の38にのり、途中バスの35Aに乗り換える。
ここはまだ地元民がおおく、値段もグリンツィングに比べると安い。料理の味も、ワインも相当なものだ。(全ての店がそうだとは保証できないが・・・)
歩き疲れて目当ての店につき、すんごいウィーン訛りのお姉ちゃんになんとか地元産の白を注文する。よく冷えた辛い上物のワインを啜りながら、ベートーヴェンも飲んだ味だろうか。なんて思うのだ。


グリンツィングから市電38に乗る所も好きな光景の一つだ。ここは終着駅で、38はこの大酒場地帯と中心部を結ぶ大事な路線。ここから乗る客はほとんどほろ酔いだ。発車間際の駆け込みもよくあるが、運転手もよくわかっているから酔客が一生懸命走ってくるのを無下に置いていきはしない。辛抱強く待って、顔の赤い老紳士が乗り込むと同時に戸がしまる。老紳士は大声で「ダンケ!」
by francesco-leica | 2010-06-09 01:37 | ウィーン滞在記


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