2005年7月14日にヤフーブログに投稿したものを再録。
すごい霧だった。 ハンガリーの首都、ブダペストはドナウ川に面しているせいか、朝夕に霧がよく発生する。 それも非常に濃く、重い霧がねっとりと立ちこめる。 深夜にドナウの川岸を歩いていてこの霧にであって、前は数メートルも見えず、なんとなく怖い気持ちになったことを覚えている。いつもなら見えるはずのくさり橋も「巨大ななにかがある」程度にしか認識できず、ただドナウの流れる水音と街の騒音が川面に反射する音が混じった小さな、不思議な、・・・ザー、とかドゥー・・・という音だけ聞こえる。そんな時は、自分が非常にちっぽけで、孤独な存在に感じられて、予定を切り上げ、早く温かいホテルに戻りたくなるのだ。 日が照ってくると霧は自然に消えて、いつもの街が戻ってくる。 早朝からすごい霧だった。その日にブダペストから飛行機で帰国する予定だった私は、起きてすぐホテルから近いブダの丘に歩いて登った。すでに明るいはずなのに、あたりは夜のように暗く、街路灯が白いベールの向こうにじんわりと見えた。 大好きなマーチャーシュ教会と漁夫の砦の広場にくると、まるで異世界が広がっていた。 人っ子一人いない。観光名所のはずの漁夫の砦は陰鬱な廃墟に見えた。 いつもなら眼下にキラキラ朝の光を受けて輝くペストの街もみえない。おそろしいような、神秘的な光景だった。霧の帯がゆっくりと木々砦の岩にまとわりついては流れゆくさまを呆然とみていた。 天候の悪い日に高山に登ったような、冷たい、重たい霧の朝だった。 霧の日には不思議な事が起こりやすいという・・・ それはどうやら真実らしい。私もその後、奇跡のような出来事にあったから。 でも、それは秘密の思い出にしておこうと思う。 濃霧の中、私の乗るルフトハンザは30分遅れで離陸、ミュンヘンへ飛んだ。 その日以来、私の心の中のあの街はいつも深い霧の中である。
by francesco-leica
| 2011-02-12 21:11
| ハンガリー特集
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