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プラハからウィーンへ

今、ウィーンの常宿についてほっと一息ついているところだ。
ここはもう10年以上、わたしのウィーン初訪問時から使い続けているところで、一区のWeihburggasseという、どこにいくにも非常に便利なところにある。
シュテファン寺院までは歩いて30秒。オペラ座までは歩いて2分。地下鉄の駅にも30秒。次の角はモーツァルトの最期の家だ。
小さなホテルだがスタッフのサービスは行き届いていて且つやりすぎることがない。古いウィーンの雰囲気を残している。それでも、一度経営が変わったのか、
インターネットで予約ができるようになったり、部屋の鍵が電子式になったり(以前は馬鹿でかい鍵を二回回すスタイルだった)したが、それでもシャツのクリーニングが絶妙にうまく、朝の食堂のフロイラインが可愛く、ポーターのおじさんは顔なじみで、部屋の扉は二重で、古いエレベーターは鏡張りだったりするのはそのままだ。
この天井の高い部屋の豪華な刺繍が施された椅子に座って窓を開け、すぐそこのケルントナー通りの喧噪、といっても慎ましいものだが、それが聴こえてくるのを聴いているとまるで時間が止まったかのような安心を覚える。
これからとりあえず、遅い昼飯を食いに行き、美術史博物館で北方の画家達の傑作や、フェルメールの「絵画藝術」に再会してこようと思う。夜はオペラ座だ。


4日に日本をでて、NRTFRAPRGのコース。NRTFRAはこれに乗りたいがためにわざわざフランクフルト乗り継ぎにした、ルフトハンザのエアバスA380。巨大な、まるでクジラ君、というあだ名でも似合いそうな巨体だが、案外すんなりと離陸した。ほとんど揺れないゆったりおっとり快適なフライト、これを味わいたかったのだ。ただ、エコノミークラスは座席が343なので折角いつもの外側3列の通路側をとっても、となりの人がトイレに立つ度にこちらも席をたってあげないといけないのは面倒だ。その点、ミュンヘン便やオーストリア航空のメイン機材、エアバスA300は242なので外側2列の通路側をとり、運良くとなりをブロックしてもらえたりすると実質2席自分のもののように使う事ができて豪華だったので残念だ。343の場合、2席が空席になるということはなかなかないだろうし。いつもの事ながら行きのフライトは長く感じるが、隣の日本語の達者で陽気なスペイン人の親子と話したり、LHの日本人CAと話したりしているとおもったより早く時間が経ってくれる。辻邦生の「春の戴冠」にそろそろ結着をつけるべく中公の文庫本を新調して持ち込んだのも正解。耳栓をして深く集中して読み進めることができた。旅行中に3巻終わるだろうか。
(ちなみにボーイング777は最後尾数列が242)

さて、フランクフルトでは、折角降り立ったのでひとつ宿題。今回荷物を全部紙袋に入れて機内持ち込みにしてあったのだが、フランクフルトのLHショップでリモアのボーディングトロリーのLH仕様を買って全部詰め替えて旅行を続けるつもりだったのだ。日本でもリモア自体は買えるのだが、あの右上にLHの鳥のマークがついているのが欲しいのだ。フランクフルト到着前に、仲良くなったCAにお店の場所を教えてもらい、乗り継ぎではなく、Ausgangへと向かう。買い物もすんなり終わる。ひとつ、シャンパンゴールドのちょっと高級版と、普通のアルミニウムのとで迷った。ものはシャンパンゴールドのほうがちょっと、いい。ただ、色はね・・・。シルバーだよなあ・・・。ゴールド系はわたしには似合わない。というか好きではないので、店員のお兄さんはものすごくリコメンドしてくるが、パス。それより問題だったのは、案外ボーディングトロリーが小さいのだ。うちにある18インチのグローブトロッターの一回り大きい版とは認識していたのだが、これではもってきたパンツやシャツが入らないではないか。少しもうひとつのバックに入れ替えたり、ドイツ人のお兄さんが巨体で体重をかけたりしてなんとか締まる。これはプラハでパッキングを考え直さなければ。日本で買うよりはるかに安く、日本では未発売のLHのマーク入りリモアが買えたのは非常に満足だ。これが帰り道だったらもうひとつくらい買って帰ってもよいのだが、などと考える。買い物が終わって早めにゲートまで付く。日本では絶対に飲まないコーラを買い、その不味さにあきれ果てながらPCを出して仕事する。この空港は無料の無線LANは飛んでいない。これがウィーンのシュベヒャートとの違い。でもまあ、ネット環境にあることが、仕事をする絶対条件ではないと思う。情報がこないほうが落ちついていられるところもあるからね。

プラハは寒い!空港から119番のバスで地下鉄の終点、デイビツカーまででるのだが、バス停ですでに震え上がる。薄暗くて薄汚いバスに、ああ、また来たんだなあと実感。べつに嫌いではない。これが好きなチェコなのだから。今度地下鉄に乗り換えると、こちらは大分きれい。チェコは来る度に新しく、きれいになっていく。1年たつともう全然違う。お店が入れ替わっていたり、改装されていたり、新しいビルが建っていたり。ものすごい速さで街が変わっていく。きれいに西側化されていく。ちょっと、心のどこかで、いいのかなあ、と感じてしまう。便利に、きれいになっていくのか歓迎すべき事だけど、古いいいものがなくなってしまうことはないのだろうか。だから、旧東側に行きたいひとは、一日でも早く、今の状況を見ておいたほうがいい。

プラハでは今回新しいホテルをお試し。今までずっと使っていたホテルが少し中心から遠いのと、そのホテルのとても近所で、いつもプラハの基地にさせてもらっていた留学生で美猫「うめぼし」の飼い主T&Yちゃんが帰国してしまって、なにもそこに固執する理由がなくなってしまったのだ。そこは安くて清潔で気に入っていたのだけれど、次のちょっと大人なホテル暮らしにレヴェルアップすることにした。前回試した宮殿のホテルは、雰囲気はいいのだが、使い勝手がいまいちで失格。古いのは大好きだが、古けりゃいいってものでもない。あと小地区マーロストランスカ側にあると、他の見所飯どころ買い物どころが全て旧市街地側なので不便すぎた。

そこで、今回はもう王道、それほどメジャーではないホテルチェーンに加盟している(つまり世界標準的なサービスの期待できる)ちょっと高級ホテルをチョイスした。場所は旧市街広場と火薬塔の中間という最高のロケーション。泊まってみて、なんという楽さ。わたしももう年なのだと実感。これから、ここに決めた。グランドホテル・ボヘミアというホテルです。値段もお手頃。

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ホテルにつくと夜8時くらいだが、日本だともう明け方だろうか、眠いはずだが、久しぶりに来たうれしさと寒さで頭は冴え渡って、腹が減ってきた。食事はだいたいここでとるウ・ピンカスーで、これもいつもこればっかりのピンカス風スープ(モツ煮系ピリ辛スープ)とパン、そしてもちろんピヴォ(ビール)で一人乾杯。ここのビールはピルスナーだが、本当にうまい。コクと手応えと甘みのバランスが最高度だ。壜で飲むのとは全然違う柔らかさもある。ゆっくりバスタブに浸かって手足を延ばして寝た。

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次の日、早朝カレル橋を歩いて渡り、まずは勝利のマリア教会で、幼子イエスさまに再会。そのあとは基本的にお買い物。これも定番コースだ。タラツコで楽譜を見て、ボントンでCDとDVDを見て、ヴァーツラフの本屋で絵はがきを見て、近くのカメラ屋さんを何軒かパトロールして。楽譜ではめぼしいもの無し。ボントンではDVDをいくつか買った。アンチェルのDVD、しかも1968年の「プラハの春音楽祭」での「我が祖国」だ。事件の約半年前だね。町中は冬の大バーゲン中で大いに盛り上がっているが、全般的に物欲が低下しているので(あと日本で結構もう買ってしまったので)あまり色気は出てこない。ゼニアもクチネリも半額だって、ふーん。まあウィーンでも見られるものはパス。

お昼は再びウ・ピンカスーで取る。ひとつ考えている事があって、行きのLHで出たお魚さんに入った醤油を使わずに持ってきたのだ。ウ・ピンカスー自慢料理、ボヘミアの鱒のグリル。これに醤油をぶっかけて食べたいのだ。正解でした。ただ、もともとお魚さんの容れ物の醤油はいいものではないので、香りはあまり無い。うちでいつも使っているみたいな口を切っただけで家中醤油の香りになるようなやつを今度は持ち込みたい。魚を食べるのは大和民族が長じている。ナイフとフォークで藝術のように骨と身を分けて食べる。もちろんピヴォも昼から飲む。だって、本当においしいのだ。世界でここでしか飲めない味だ。残念ながら、日本のビアホールで飲むビールは残念ながら数等、いや10等くらい落ちる。日本のビールは苦いばっかりでね。かといって、苦くないと、力のない薄っぺらい味になる。
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ヴァーツラフ広場のクリスマス市で、トゥルドゥロ(これはうまく表記できない。TRDLO)がおいしい!ホテルに戻ってちょっとお昼寝。もともとこの旅行は「なにもしない」ということを目的で来たので、ここまででもちょっと働き過ぎだ。夜ご飯は近くの以前おいしかった中華で。ここでは普通語で注文する。さすが、伊達に先月上海に行っていた訳ではない。ただし、メニューはチェコ語、高い料理は日本語併記、という姑息な手には乗らないで、ちゃんとチェコ語で書かれた安い定食を頼む。だいたいのいままでの経験で、豚肉と野菜の辛い炒め物、と踏んだが、果たして思った通りのものが来る。ちょっと塩辛いがこちらは全般にそうだ。あのねえ、だいたいヨーロッパもいろんなところにいったけれど、だいたいどこでご飯を食べても外れなくうまい食べ物が出てくるってのはイタリアくらいだったよ。あと韓国、中国も割とそうだった、なにしろ安いし。それでもチェコは比較的おとなしい、というか、量が他の中欧圏のように半端なく容赦なく出てくることがない(チェコ人は案外華奢な人が多い)のが救われる。あとはピヴォが呆れるくらいおいしいので、料理がはずれでも我慢できる。

それから寒い寒い中を歩いて、ドヴォルザークホールへ。途中、旧市街広場を通り掛かって、19時の天文時計の仕掛けに間に合ったのはラッキーだった。ドヴォルザークホールを持つなつかしいルドルフィヌム(藝術家の家)まで、ホテルから10分かからない。このホテル、もうこれで決まりだ。インバル指揮、チェコフィル。久しぶりのチョコフィルの木の音、木の響き。
前半ソリストのニコライ・シュナイダーの吸い付くようなレガートにビックリ、素晴らしい。拍手なりやまずアンコールはバッハのサラバンド。これは聴けてよかった!
後半はドヴォ7。同じ会場、オケで、マーツァル指揮のライブを聴いた身にはやや物足りなし。その時は楽章が割る度にブラヴォーと拍手が起こったのだ。
それにしてもやはりいいオケだ。艶やかなヴァイオリンセクションといい、素朴な木管といい、一徹な金管といい、ああチェコフィルだ・・・、とうれしくなる。
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帰り道の旧市街、幸せな気持ちでホテルに帰った。ゆったり湯船に浸かり疲れを取る。

このホテルは朝食も良かった。ボヘミアン・ゼクトが置いてあってビックリ、朝からシャンパンというマンガのような人が実際にいるらしい。わたしにとっては日替わりのスープがあるのがうれしい。スープかみそ汁というのは毎食絶対ほしいものなのだ。あと、なぜか沢庵に醤油に海苔が置いてあるのにもビックリ。確かにテレビに衛星放送のNHKが入ったり日本人向けサービスがあるのだが(ただ衛星放送は全く魅力ない・・・日本から出たくて来ているのだから意地でも見ない)スクランブルエッグやソーセージやパンの中に上記のものだけ置いてあるのは一体、どうやって食べるのだろうか。これにご飯があれば別だが。ちなみにもう一皿は山盛りの豆板醤だった。これはわたしはスプーンにすくって玉子に付けて食べた。辛いのが好きでねえ・・・(伊丹十三曰く、藝術家は辛いものを好む。毛沢東曰く、革命家は辛いものを好む。笑)。

プラハ中央駅に早めに着く、いままでの経験だと、チケットを買うのが一苦労だからだが、これは杞憂に終わった。新しくなった中央駅はめちゃくちゃきれいで整えられており、国際列車のチケットは30秒で買う事ができたのである!これは驚き。いままではホレショヴィツェからウィーン南駅までだったのが、今回からは中央駅からウィーン・シンメルリンクまでに変わっていた。これも時代の移り変わりを感じる。列車はEC75「フランツ・シューベルト」。ちなみに、この列車の直前に出るハンブルグ行きの列車は「ヨハネス・ブラームス」だった。

列車は通い慣れた線路を走る。パルドヴィツェ、トレヴォダ、ブルノ・・・。南下につれて、草原から雪が消えていく。予約をしなかったので、コンパートメントに予約札の付いていないところを探す。運良く見つけられた席は品のいいおじいさんと、太ったお兄さんの二人のチェコ人と。おじいさんはきれいなドイツ語を話す。列車が技術トラブルで5分発車が遅くなる事を教えてくれた。以前はこの路線はスーパーシティのみだったので、全席予約で途中下車ができなかったのだが、今回はECなのでブルノで降りて飯を食うか、凄く迷ったが、まあ、今度ブルノだけ、ウィーンから日帰りしてもいいので今回は早くウィーンに着く事を優先することにした。ほとんどの人はメイドリンクまで乗るみたいだが、わたしはシュテファンスプラッツにすぐU3で出られるシンメルリンクで降りる。ああ、駅からなんだかウィーンの匂いがする。地下鉄ガラガラ。のんびり、心がほどけていく。ここに来て、ああ、プラハでは緊張していたんだ、とわかる。このウィーンではなにもかも安心できる。シュテファンスプラッツの駅の階段を駆け上り、いつものケルントナー通りに出て、次の角を左に曲がって、帰って来た。ホテル・カイザリンエリザベトに。アジアばかりに行っていて、一年振りの我が家。レセプションで、「えーと、名前はキタガワで・・・」などと話し出すと、おじさん笑って「分かっていますよ!どうですか、元気でしたか?」と。ああ、よかった。帰って来た。
部屋までいつもの201。ちょっと家具のレイアウトが変わっている。それくらいかな。世界一おいしい水道水をいま、がぶ飲みした。

昼飯が電車のなかでの手製サンドイッチとお菓子だけだったので、腹がすいた。今から福仁のラーメンでも食べて、美術館行きます。
by francesco-leica | 2011-01-06 23:18 | ウィーン滞在記


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